たかが猫じゃらしである。
棒の先に、羽だの紐だの、虫だか鳥だか分からない何かがぶら下がっているだけの、平和な遊び道具である。本来なら、こんなものに人生経験や観察眼や経済力を総動員する必要はない。
しかし、猫じゃらしを笑うものは、猫じゃらしに泣く。
先代猫は、カサカサ音を許さなかった
先代の猫は、野生出身の元野良だった。生後2か月ほどで保護されたその猫は、カサカサ系のおもちゃに対してだけは断固として距離を置いた。おそらく命に関わる音と、そうでない音の線引きが、こちらの想像以上にはっきりしていたのだろう。あれは獲物ではない。怪異である。そう言いたげな顔をしていた。
猫おもちゃの世界では、すべての猫に普遍的な正解など存在しない。その事実を、私はかなり早い段階で思い知らされていた。
保護猫サイベリアン、2匹は成猫なのに目を輝かせた
一方、1歳半〜2歳で迎えた保護猫サイベリアン2匹は、長いケージ暮らしの影響か、成猫のくせに猫じゃらしにも猫おもちゃにも興味津々だった。
これは僥倖である。ケージ暮らしで落ちた筋力を回復させるためにも、こちらとしてはぜひ遊んでもらいたい。
いや、これは娯楽ではない。半分リハビリであり、半分トレーニングであり、飼い主の気持ちとしては盛衰を賭した闘いである。だが現実は甘くなかった。彼らは遊ぶことに自主性がない。こちらが動かなければ、遊びは発生しない。彼らは娯楽の消費者であり、生産者ではないのだ。しかもサイベリアンは賢い。攻略が早い。飽きるのも早い。
猫じゃらしとは、ただ振ればいい棒ではなかった。
それは猫の知性、視認性、嗜好、瞬発力、そして飼い主の想像力、危機管理能力まで問う、きわめて奥深い世界だったのである。
問題は、賢いことだった
サイベリアンは賢いとよく言われる。実際、その通りだった。
オーソドックスな猫じゃらしは、最初こそ食いつく。だが、すぐに攻略される。こちらの振り方の癖、軌道、フェイントの浅さ、そういった人間側の戦術的未熟さを、彼らは容赦なく見抜いてくる。
一度読まれた軌道では、もう盛り上がらない。猫じゃらしを振っているつもりが、いつの間にかこちらが対サイベリアン攻略の指揮官となっている。私はただ遊ばせたいだけなのに、求められているのは軍師の才能だった。
すぐ攻略されるのは、道具と策略の問題だけではない。振る側の表現力にも大きく関わってくる。
猫じゃらしは動きが命である。
ゆえに私は、チューバード――羽の生えたネズミの気持ちになり、ときにイモ虫のようなバッタ、ときに三又の蛇となって、その動きを再現するのである。さらにクロイの飛びかかりたいという欲求に応えるため、蛇を飛ばす。本来、蛇は飛ばない。三又でもない。だが、我が家では三又の蛇が飛ぶのである。
チューバード20本体制は、なぜ崩壊したのか
チューバード。羽のついたねずみ型のおもちゃである。
これが大当たりだった。
夢中で追いかけ、捕獲し、羽をむしり、秒で破壊する。
それほどまでに愛されたのである。
しかし、愛されるものは儚く壊れる。
そして猫おもちゃ市場の残酷さを知る。近くの店には売っていないのだ。隣県の親族に買ってきてもらう。その供給網もいつまでも当てにしてはいられない。情勢不安の時代に、特定ルートに依存した調達体制は脆弱である。
私は学んだ。だからまとめて発注した。1ケース、20本体制。盤石の布陣だった。
3本で飽きた。
私はここで、需要予測の難しさを知る。市場は、いや猫は、昨日までの熱狂を明日の継続へと保証してはくれない。あれほどまでに求められていたものが、ある日突然、無風になる。経済も政局も猫じゃらしも、つくづく生き物だと思う。
残り17本。我が家には今、過去の成功体験にすがった飼い主の判断ミスが、在庫という形で眠っている。
猫じゃらしは動きだけではない。色もまた、重要なのではないか
おしろさんは、薄い色を見失う気がする
猫じゃらしは動きが命。
それは間違いない。
しかし、それだけでは説明のつかない反応差がある。
おしろさんは、白系、ベージュ系の薄い色のおもちゃだと、どうも見失いやすい気がする。
反対に、濃い色のほうが狙いを定めやすそうだ。
青い目のおしろさん。青い瞳は光の感受性が強いと聞く。目の色が関係あるのか、背景とのコントラストの問題なのか、そこは断定できない。
私はついに、猫の見ている世界について思索する段階に入った。
ただ遊ばせたいだけだったはずなのに、気づけば視認性と配色について調べ始めたのだ。
猫おもちゃとは、そういう沼である。
クロイは紐、おしろさんは虫と鳥
さらに難しいのは、個体差があり、好みが違うことだ。
クロイは紐系、にょろにょろ系が好きである。床を這う、逃げる、蛇のようでもあり、獲物の断末魔のようにも見える、あの動きに強い。そして前述の通り、我が家では蛇が飛ぶ。クロイは地を這う蛇も、空を飛ぶ蛇も、どちらも仕留めにくる。守備範囲が広い。
一方、おしろさんは小型の虫・鳥系が好きだ。少し軽くて、小さくて、すばやい。その気まぐれでつかみどころのない動きに、狩猟本能が刺激されるのだろう。待ち伏せタイプで、おしろさんの狩猟タイミングが合うまで、猫じゃらしを振り続けなければならないのだ。
同じ人間が、同じ熱量で振っても、反応は違う。
猫じゃらし選びとは、もはや玩具選びではない。個体差と性格と瞬発力に合わせた、個別に最適化された文化政策である。
遊びの終わらせ方
ところで、犬と猫では遊びの終わらせ方も違う。トリマーとして犬と長く関わってきた経験から、犬との遊びは飼い主が勝つ形で終えるのが基本だと体に染み込んでいる。遊びをスムーズに切り上げたい時、しつけを重視する場面では特にそうだ。犬は「飼い主とのコミュニケーション」を重視しているそうだ。
しかし猫は違う。猫には、獲物を仕留めさせて終わらせる。誰かに教わったわけではない。幼少の頃から猫と暮らしてきた経験と、長年の勘がそう言っている。猫じゃらしの最後は、猫に捕まえさせる。それがどうにも自然なのだ。最後に獲物を仕留められないまま終わってしまうと、フラストレーションが溜まり、不機嫌になるのだ。
毎日のトレーニングで、ハンターが育った
毎晩の猫じゃらしタイムを続けていると、2匹の変化が目に見えてわかるようになった。筋力がつく。動きが速くなる。持久力も上がる。ケージ暮らしで細くなっていた体が、みるみる逞しく締まっていく。
これはもう、猫をじゃらしているのではない。ハンターを、いやアサシンを育てている。そういう気分になってきた。
飼い主は今日も、棒を持って道場に立つ。
好きと安全は、必ずしも両立しない
猫おもちゃの世界は難しい。食いつきがいいものが、必ずしも採用し続けられるとは限らないからである。
たとえば、毛でできた小動物系の猫じゃらし。これはクロイにかなり好評だった。獲物としての完成度が高いのだろう。見つける、飛びつく、噛む、持ち去る、その流れが非常に自然だった。
だが、破壊王クロイは、その先へ行く。噛みちぎるのである。そして食べるのである。
そこまで熱意を見せられると、飼い主としては複雑だ。高評価であることは間違いない。だが、その評価が胃袋に向かってしまうのは困る。危険と判断し、封印することにした。
ビニール系のおもちゃも同じだった。カサカサ、ひらひら、あのいかにも心をくすぐる質感は、クロイの大好物である。遊びの食いつきだけ見れば優秀だった。だが、やはり食べようとする。こちらは猫じゃらしを選んでいるつもりだったが、実際には「どこまでが遊びで、どこからが誤飲の入口か」を見極める係でもあったらしい。
猫おもちゃ選びとは、単なる好みの問題ではない。好きかどうか。盛り上がるかどうか。飽きるかどうか。さらに、安全かどうか。検討項目が多すぎて、品質管理課の設立が急務である。
クロイはきっと、心から楽しんでいた。でも、楽しさと安全が両立しないなら、そのおもちゃは我が家では不採用になる。猫をがっかりさせるのは少し切ない。だが、あとで青ざめる未来よりはましである。
番外編:結局、ゴミは強い
トイレットペーパーの芯、まるめた紙、紙袋、ペットボトルのキャップ。
世の中には、飼い主が慎重に吟味した商品ラインナップを、一瞬で無に帰す存在がある。
こちらが素材、安全性、耐久性、価格、供給性、色、動き、飽きの早さまで検討している横で、猫はペットボトルの蓋を追いかけている。高いおもちゃを比較したあとに、無料のゴミが勝つ。
この理不尽さこそ、猫と暮らす醍醐味なのかもしれない。
すべての道は、ゴム紐に通ず
いろいろ試した。
オーソドックスな猫じゃらしから、
羽系。ヒモ系。虫系。獣系。
大人買いまでした。視認性の仮説まで立てた。
その果てに、我が家で不動の一番人気になったのは何だったか。
『ゴム紐でつながれていたおもちゃが取れてしまい、ただのゴム紐だけの状態になった猫じゃらしの棒』
通称:ゴム棒である。
こちらの分析も、投資も、供給計画も、全部を飛び越えて、猫はゴム棒を選んだのだ。
猫じゃらしとは深い。だがその深さは、こちらの努力が報われる方向にばかり掘られているわけではない。
たかが猫じゃらし。
されど猫じゃらし。
私は今日もまた、棒の先に何をつければ彼らの心が動くのかを考えている。
おしろさんお気に入り「チューバード」「カシャカシャぶんぶん」↓
疲れた時は自動で遊んでもらいましょう↓
食いつきが良すぎて、封印されし猫じゃらし↓

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